読んだ本

砕かれたハリルホジッチ・プラン : 日本サッカーにビジョンはあるか? / 五百蔵,容,1969-(2018)

語り継がれるべき良書

2018年のW杯直前に突然解任されたハリルホジッチ監督の事績をまとめた、極めて良き本です。サッカー関連の書籍、読み物では一番面白かったし、悲しくもあった。エキサイティングな戦術の本でもあり、悲劇の話でもあった。在任中2015~2018年当時のサッカー界でトップレベルの指導者だったハリルホジッチの取り組みを、サッカーの競技としての戦術、戦略のレベルから紐解いていくという試みを、このページ幅でまとめてしまうのもすごい。

競技の特性から逆算した勝利のための戦略

ハリルホジッチが選手に求めたものは競技としてのサッカーで勝つために必要な全てでした。世界のトップレベルに劣後しないフィジカルとメンタリティを育て、敏捷性、高い技術を武器としながら、苦手なゾーンディフェンスすらも活用し、最高の成績を出そうとした。

監督しての責務を果たす姿は、読んでいて胸が熱くなるものがありました。こんな熱心に仕事をする人がいるのか、というのが素直な感想でした。

ハリル以後の日本代表

ハリル以後の日本代表は"Japan's Way"を掲げ、選手主体でボトムアップ的にチーム戦術から何まで"選手がやる"ことを徹底させるマネジメントに移行していきました。その段階で選ばれたのが日本人監督としての森保監督でした。「自主性を重んじる」「選手主体」などの語彙を並べてみると部活みたいで爽やかに思えますが、この上層部の態度はハリル解任の経緯に由来するマネジメントの責務からの逃走を正当化するの態度にも見えました。実際、就任からカタールW杯までの期間は戦術的なマネジメントが欠点として語られることは多く、"Japan's Way"はマネジメントの不足の意味合いで用いられることが多かったように思います。

その後、森保JAPANが予選リーグでドイツ、スペインと世界の強豪国を薙ぎ倒したことで森保監督の評価は反転し、同時に"Japan's Way"というボトムアップ的マネジメントスタイルが見直されていったように思います。

ここ最近の代表チームは史上最強の評判通りの、過去にない高い水準のチームになりました。三苫薫、久保建英、冨安健洋、鈴木彩艶、伊藤洋輝、遠藤航、佐野海舟、鎌田大地、南野拓実などなど、トップレベルで当たり前のように戦っているワールドクラスの選手たちを擁し、ハリルホジッチ在任中に課題とされてメンタリティの部分など、世界で勝つための基礎的な能力についての課題は、若い世代の台頭によって解決されています。

ハリルの解任は正しかったのか

ハリル以後、特に森保JAPANのここまでの歩みは、かなり順調に進んでいると言っていいと思ってます。過去最高のレベルの選手を揃えて、世界の強豪を倒してきた今のチームのチームの状態は、最高の状態と言っていいかもしれません。

ただ、これを書いている2026年6月10日時点では、日本代表が15日に初戦を迎えるW杯の結果は出ていません。森保JAPANの決算はこれからです。

ハンス・オフトから西野JAPANに至るまで、数々の監督や選手の取り組みを積み上げて存在している日本代表は、明らかに世界水準で戦える選手を擁するチームに成長しました。一方で、ハリルホジッチ監督が行ったことの功績と反省については、「コミュニケーションの問題」と一蹴されたまま、先の大戦の歴史のように、当事者やサッカーファンの間で忘却されたままに見えます。

日本サッカーに情熱を注いだ功労者ハリルホジッチを俺たちはどう語るるべきなのか。それを考える上で今回読んだ『砕かれたハリルホジッチ・プラン』はその材料として最良の本でした。